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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)17115号 判決

原告(反訴被告) 吉田工事株式会社

右代表者代表取締役 吉田一乗

右訴訟代理人弁護士 山根茂

右訴訟復代理人弁護士 小野寺昭夫

被告(反訴原告) ロータリーマンション管理組合法人

右代表者理事 門間昌敏

被告 株式会社創英企画

右代表者代表取締役 前原俊之

右両名訴訟代理人弁護士 植木敬夫

主文

一  被告(反訴原告)ロータリーマンション管理組合法人及び被告株式会社創英企画は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録二記載の建物を明け渡し、かつ、各自昭和六一年五月二八日から右建物明渡済みまで一か月三万円の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求及び反訴原告(被告)ロータリーマンション管理組合法人の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴に生じた部分は被告(反訴原告)ロータリーマンション管理組合法人及び被告株式会社創英企画の、反訴に生じた部分は反訴原告(被告)ロータリーマンション管理組合法人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告らは、原告に対し、別紙物件目録二記載の建物を明け渡し、かつ、各自昭和六一年五月二八日から右建物明渡済みまで一か月五万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 反訴被告は、反訴原告に対し、別紙物件目録二記載の建物につき、東京法務局杉並出張所昭和六一年五月二八日受付第二三五八四号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告(反訴被告、以下「原告」という。)は、昭和六一年五月一五日競売により別紙物件目録二記載の建物(以下「本件管理人室」という。)の売却を受けた。

2 本件管理人室は、訴外会社モリシタ産業株式会社(以下「訴外会社」という。)が昭和五一年三月ころ建築して分譲した、区分建物が七十数戸ある別紙物件目録一記載の建物(以下「本件マンション」という)の一室で、内部の構造等は別紙「本件管理人室の説明」(以下「別紙説明」という。)及び別紙図面記載のとおりであり、本件管理人室は、本件マンションから構造上区分されていて、独立して居住、事務所その他建物としての用途に供することができるもので、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)にいう専有部分となる建物であり、それ故、訴外会社の自己の専有部分として所有権保存登記をなして、本件管理人室を使用して本件マンションを管理していたのである。

従って、原告は、競売により本件管理人室の所有権を取得したものである。

3 被告(反訴原告)ロータリーマンション管理組合法人(以下「被告管理組合」という。)は、昭和五九年四月一日本件マンションの区分所有者の集会で、任意団体のロータリーマンション自治会(以下「本件自治会」という。)として設立された後、昭和六一年七月二七日本件マンションの管理組合法人として設立され、同年八月一二日法人登記されたものであり、被告株式会社創英企画(以下「被告会社」という。)は、被告管理組合から本件マンションの管理業務の委託を受けた会社であり、被告らは、本件管理人室を共同して占有している。

4 昭和六一年五月当時の本件管理人室の賃料相当額は一か月五万五〇〇〇円である。

よって、原告は、被告らに対し、所有権に基づき、本件管理人室の明渡しと、各自昭和六一年五月二八日から右明渡済みまで一か月五万五〇〇〇円の割合による賃料相当損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因一項の事実は認める。

2 同二項の事実のうち、本件管理人室が訴外会社において建築、分譲した、区分建物が七十数戸ある本件マンションの一室で、その内部の構造等について別紙説明及び別紙図面記載のとおりであること、訴外会社が本件管理人室につき所有権保存登記をなし、これを使用して本件マンションを管理していたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

3 同三項の事実は認める。

4 同四項は争う。本件管理人室の賃料相当額は、せいぜい一か月一万五〇〇〇円である。

三  被告らの主張

本件管理人室は、別紙説明及び別紙図面記載のとおり、本件マンションの玄関ホール傍らに位置していて、受付用小窓が設置され、室内には自動火災報知機や防扉作動表示板など必要な設備も設置されており、本件マンションの建築当初から本件マンションの管理に供するために設計され、構造上も管理人の管理事務遂行にのみ使用できるよう建築されたものである。そして、本件マンションは、約八〇戸に近い区分建物を持つ大規模なマンションで、専任の管理人を置くこと、そのための管理室を設けることが必要不可欠であるところ、本件管理人室は、本件マンションの建築当初から管理人室としてのみ使用されているのである。従って、本件管理人室は、区分所有法に定める法定共用部分であって、区分所有の目的とならないから、原告は、競売によっても本件管理人室の所有権を取得することはない。

三  抗弁

1 本件マンションの区分所有者は、昭和五九年四月一日本件自治会を結成し、その際制定した規約(ロータリーマンション標準管理規約)により本件管理人室を共用部分と定めたが、原告は、その後本件管理人室を取得したのであり、右規約の拘束を受ける。

2 本件自治会は、昭和六一年七月二七日被告管理組合となり、原告もその構成員であるところ、その際制定した規約(ロータリーマンション管理組合法人規約)により改めて本件管理人室を共用部分と定めた。

3 訴外会社と、被告管理組合の前身である本件自治会は、昭和五九年四月一日本件管理人室につき本件マンションの管理事務遂行のために使用することを目的とした期限の定めのない使用貸借契約を結んだが、前記のように、その後本件自治会、被告管理組合において規約により本件管理人室を共用部分と定めて管理事務遂行に使用しているのであり、競売により本件管理人室を譲り受けて本件マンションの区分所有者となった原告に対しても右使用貸借をもって対抗できる。

4 本件管理人室は、その構造上本件マンションの管理のために建築され、本件マンションの建築当初から訴外会社により管理人室として使用され、訴外会社が昭和五九年四月ころ事実上倒産して本件マンションの管理をしなくなった以後は、被告管理組合が右目的でこれを使用していたところ、原告はこれらの事情を知悉しながら、あえて本件管理人室を競落したうえで、被告管理組合に対し、不当に高額の代償でこれを買い取るか賃借りするか、さもなくば本件マンションの管理を委託せよと要求し、被告管理組合が本件管理人室の買取りを決め、資金準備をするや、一転して売渡しを拒絶するに至ったのであり、これらの事情に照らすと、原告の本訴請求は、権利の濫用にあたるというべきである。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁一項のうち、原告が本件管理人室を取得したことは認めるが、その余の事実は知らず、その主張は争う。

2 同二項の事実は知らない。

3 同三、四項の事実は否認し、その主張は争う。

五  再抗弁

1 本件自治会が制定した規約は、その有効期限が昭和五九年九月三〇日までと定められていたのであり、また、本件管理人室を共用部分とする規約につきその旨の登記手続はなされていない。

2 原告は、被告管理組合が昭和六一年七月二七日規約を制定した際、本件管理人室を共用部分とすることを承諾していない。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は、いずれも認める。

(反訴)

一  請求原因

1 被告管理組合は、昭和五九年四月一日本件マンションの区分所有者の集会で本件自治会として設立された後、昭和六一年七月二七日本件マンションの管理組合法人として設立され、同年八月一二日法人登記された。

2 本件管理人室の構造等は、別紙説明及び別紙図面記載のとおりであり、右事実、その他、本訴の被告らの主張記載の事情に照らし、同主張のとおり、本件管理人室は、法定共用部分であり、本件マンションの区分所有者全員の共有に属する。

3 本訴抗弁一、二項記載のとおり、本件管理人室は、本件自治会又は被告管理組合の規約により共用部分と定められたのであり、本件マンションの区分所有者全員の共有に属する。

4 原告は、本件管理人室につき、東京法務局杉並出張所昭和六一年五月二八日受付第二三五八四号所有権移転登記を経由している。

よって、被告管理組合は、原告に対し、所有権に基づき、本件管理人室につき経由されている右登記の抹消登記手続きを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因一項の事実のうち、本件管理人室の構造等が別紙説明等記載のとおりであることは認めるが、その主張は争う。

2 同二の主張は争う。

3 同三、四項の事実は認める。

三  抗弁

1 本訴請求原因一項記載のとおり、原告は、競売により訴外会社から本件管理人室を取得した。

2 本訴の再抗弁一、二項記載のとおりである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はいずれも認める。

第三証拠《省略》

理由

一  まず、本訴について判断するに、請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。(なお、被告らは、当初原告が本件管理人室の所有権を取得したことを認めるような答弁をしているが、その後前記摘示のような主張をして反訴も提起し、原告がこれに対し異議なく答弁して反論している経緯に照らすと、被告らが原告の本件管理人室の所有権取得を自白したとしても、その後黙示的に右自白の撤回がなされ、原告もこれに同意したとみなされるものである。)

二  そこで、請求原因二項、即ち、本件管理人室が区分所有法にいう専有部分で原告がその所有権を取得するのか、法定共用部分で本件マンションの区分所有者の共有に属するのか判断する。

(一)(1)  本件管理人室が訴外会社において建築、分譲した、区分建物が七十数戸ある本件マンションの一室で、その内部の構造等が別紙説明及び別紙図面記載のとおりであること、訴外会社が本件管理人室につき所有権保存登記をし、これを使用して本件マンションを管理していたことは当事者間に争いがない。

(2)  《証拠省略》によると、訴外会社は、本件マンションの管理業務を遂行する際各区分所有者から管理費を徴収していたこと、訴外会社は、昭和五三年二月ころ安全信用組合のために本件管理人室に極度額五〇〇〇万円の根抵当権を設定したところ、昭和五九年ころ事実上倒産し、昭和六〇年二月同信用組合の申立てにより本件管理人室につき競売開始決定がなされ、昭六一年五月原告がこれを競落したことが認められる。

(二)  以上の事実によると、本件管理人室には、玄関寄りに受付用小窓が設置され、室内に自動火災報知機及び防扉作動表示板が設置されており、区分建物七十数戸がある本件マンションの建築、分譲当初から管理人室として使用されてきたというのであり、もともと管理人室として設計、建築されたことは明らかである。しかしながら、本件管理人室は、他の空間とは障壁によって区切られ、構造上他の部分と区別されてた独立性を有することは明らかであり、また、本件管理人室には専用の出入口があり、右防災用設備も本件管理人室の西側壁の僅かな一部分を占めているにすぎず、これらは他の場所へ移設することもできると目され、本件管理人室には日常生活に必要なガス、水道等が備わっていて、本件マンションの管理以外にも使用できると認められ、さらに、本件マンションを建築、分譲した訴外会社が本件管理人室を区分して、自己の所有物件として所有権保存登記をなし、本件管理人室の使用価値、交換価値を把握してきたのであり、これらの事情に照らすと、本件管理人室は、本件マンションの区分所有者にとって必要なものではあるが、区分所有者全員にとって不可欠のものとか、管理人室以外の用途に供することが期待され得ないものとはいえず、独立して建物としての用途に供することができるものと認められる。従って、本件管理人室は、区分所有法にいう専有部分と認められる。

三  そこで、被告らの抗弁について検討するに、《証拠省略》によると、抗弁一項の事実を認めることができるが、これに対する再抗弁一項については当事者間に争いがないのであり、抗弁一項の被告らの主張は採用することができない。

また、《証拠省略》によると、抗弁二項の事実を認めることができるが、これに対する再抗弁二項については当事者間に争いがないのであり、抗弁二項の被告らの主張も採用できない。

以上により、本件管理人室は、区分所有法にいう専有部分であって、もともと訴外会社が所有していたのであり、競売により原告がその所有権を取得したと認めることができる。

四  すすんで、抗弁三項について検討するに、昭和五九年四月訴外会社が事実上倒産して本件マンションの区分所有者により本件自治会が結成され、規約により本件管理人室を共用部分と定めたことは抗弁一項で認定したとおりであり、《証拠省略》によると、訴外会社が事実上倒産した後、同会社から本件マンションの管理を委託されていたマツナガ産業株式会社(以下「マツナガ産業」という。)と本件自治会との話合で、本件マンションの管理を本件自治会に委譲し、本件自治会から被告会社に管理業務が委託され、以後被告会社が右管理業務を遂行していることが認められるが、訴外会社(あるいはその代理人のマツナガ産業)と本件自治会との間で本件管理人室につき被告ら主張の使用貸借契約が結ばれたことを認めることはできない。仮に、右事実が認められたとしても、その後競売により本件管理人室を取得した原告に対しては右使用貸借をもって対抗することができないと解すべきであり、いずれにしても、被告らの右主張は採用できない。

五  抗弁四項について判断するに、本件管理人室が本件マンションの管理業務遂行のために建築され、本件マンションの建築当初から訴外会社により管理人室として使用され、訴外会社が昭和五九年四月ころ事実上倒産した以後は被告管理組合が管理人室として使用していたことは、前記認定のとおりであり、《証拠省略》によると、本件マンションの区分所有者で構成する本件自治会の昭和五九年四月一日、八日、一五日の総会において、本件自治会で本件管理人室を買い取る旨決議したが、結局これが実行されなかったこと、原告が本件管理人室を競落した後本件自治会の役員に対し、原告に本件マンションの管理を委託してもらいたい旨の、それがだめなら原告に賃料を支払って貰いたい旨の申出をしたことが認められるが、同項のその余の事実は認められず、前記認定のとおり、本件管理人室の根抵当権者である安全信用組合の申立てにより本件管理人室につき昭和六〇年二月二七日競売開始決定がなされ、原告が昭和六一年五月一五日これを競落して所有権を取得したという経緯等に照らすと、右事実から、原告の本訴請求が直ちに権利の濫用にあたると断ずることはできず、被告らの主張は採用できない。

六  請求原因三項の事実は当事者間に争いがない。

七  本件管理人室の賃料相当額について(請求原因四項)判断するに、本件管理人室の状況については前記のとおりであり、本件管理人室は、管理人室としてばかりでなく、事務所、住居等にも使用できると認められるところ、《証拠省略》によると、昭和六〇年八月当時、本件マンションの一階の一一三号室(床面積二八・七三平方メートル)の評価額が三八三万円で、賃料が一か月七万円、同一一四号室(床面積二七・五九平方メートル)の評価額が二七〇万円で、賃料が一か月六万円であり、本件管理人室の評価額は一四八万円であることが認められ、右事実と弁論の全趣旨を勘案すると、本件管理人室の昭和六一年五月当時の賃料相当額は、少なくとも一か月三万円であると認めることができる。

八  次に、被告管理組合の反訴請求について検討するところ、本件管理人室が区分所有法にいう専有部分であって、法定共用部分でないこと、本件管理人室を共用部分とする旨の本件自治会の規約は期限付きであり、かつ、これにつき登記がなされていなくて原告に対抗できず、また、被告管理組合の同旨の規約は原告の承諾がなくて原告に対し効力がないことは、本訴請求につき判断したとおりであり、被告管理組合の反訴請求はその余の主張について判断するまでもなく理由がない。

九  以上により、原告の本訴請求は、被告らに対し、本件管理人室の明渡しと各自昭和六一年五月二八日から右明渡済みまで一か月三万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は棄却し、被告管理組合の反訴請求は、理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下秀樹)

〈以下省略〉

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